【スペシャル対談】積水化学工業 × ほっとコンサルティング

目次

積水化学工業のカーボンニュートラルへの挑戦

副題:スコープ1削減を支援する「現場起点」の伴走支援とは

開催概要

日時
2026年1月23日(金)13:00〜14:00(Google Meet)

登壇者

  • 積水化学工業株式会社 ESG経営推進部 環境経営グループ 担当課長 博士(環境科学)
     吉田 徹 氏
    (以下、SK
  • ほっとコンサルティング株式会社 代表取締役
     深澤 篤志 氏
    (以下、HC

ファシリテーター

  • Duo Partner Design合同会社 代表社員
     松口 賢士
    (以下、DPD

積水化学の取り組み。RE100からScope1へ

DPD

今日は、積水化学工業様のカーボンニュートラルへの挑戦を主題に、これまでどんな取り組みをされてきたのか、どんな考え方をしているのか、さらにこれから業界がどうなっていくのか、少し深掘りさせていただけたらと思います。
副題としては「SCOPE1削減を支援する現場起点の伴走支援」という形で、深澤様の取り組みも併せてお聞きできればと思います。

では早速ですが、積水化学工業様とほっとコンサルティング様でSCOPE1削減の取り組みをされたということで、まずCO2削減活動を本格化された経緯をお聞かせください。
深澤さんと出会われる前にどういう経緯で必要だと思ったか、出会ってどんなふうに取り組みをされたのか、流れを伺えればと思います。


SK

もともと積水化学は90年代から、京都議定書以前の段階から、温室効果ガス削減の取り組みを行ってきていました。社内補助金制度を作ったりして取り組みを進めてきて、2018年にはSBT認証も取得しています。

私は2020年1月に入社しましたが、その頃に菅総理のカーボンニュートラル宣言があり、国のCO2削減目標が26%から46%まで引き上げられました。これを受けて会社の目標も引き上げざるを得ず、2030年の削減目標を26%から50%まで上げました。

今までと同じ取り組みではもうだめだとなり、最初にやったのがRE100の加盟です。2020年8月に加盟し、社内の補助制度も改訂して、再エネ電力購入の差額補助をする形にしました。2019年度は0.35%しか再エネ比率がなかったのが、24年度末で61%まで上がっています。

次に削減しなきゃいけないのはスコープ1だよね、という話が、22年末に23〜25の中期計画を作る中で出てきました。スコープ1削減のために、社内補助制度もそちらに舵を切りました。

その中で、23年の途中から私が省エネ診断として、受入てくれた拠点を訪問するのを始めました。

やっていく中で「これヒートポンプにした方がいいんだろうな、でも自分はヒートポンプの提案をしたことがない」となって、23年頃にヒートポンプの協会(日本エレクトロヒートセンター)の方に相談し、深澤さんをご紹介いただきました。

最初に一緒に訪問したのが積水LBテックで、24年3月です。そこから年に4〜5か所ぐらいのペースで、深澤様にお力を借りて診断を進めてきています。

また、将来の備えとして水素の取り組みも少し勉強を始めました。滋賀県さんがやる気があり、一緒にタッグを組んで、しが水素拠点形成コンソーシアムが立ち上げています。

足元では省エネをやりつつ燃料転換を進め、燃料転換でもご支援をいただき、補助金申請などを準備しているところです。

ヒートポンプ診断支援と現場改善の実際


DPD

ありがとうございます。続いて深澤様から、今回の取り組みの全体像、どんな支援をしたかを教えてください。
加えて「ここはすごく改善できた」「喜ばれた」という点も伺えればと思います。


HC

私がヒートポンプに携わったのは前々職、省エネ系のサブコン時代です。ヒートポンプメーカーの前川製作所さんとインクメーカーさんと三者連携で、印刷業界向けのヒートポンプシステムを構築して、特許も取得しました。全国で20システム以上導入しています。

日本エレクトロヒートセンターには前々職から参加していて、前職(三井住友ファイナンス&リース)でも参加し、独立した今も参加しています。

23年頃に、エレクトロヒートセンターから積水様をご紹介いただいたのがスタートです。

数で言うと、23年度が2件、24年度が4件、25年度が5件。今期もあと1件実施予定です。来年度も数件予定ということで、10件以上、診断のお手伝いをしてきました。


DPD

ヒートポンプや今回の取り組みの中で、どんなところが改善できた、喜ばれた、という点はありますか?


HC

積水化学様の現場を見ると、熱の使い方はいろいろあります。お湯を使う、熱風を使う。さらに温度が低い領域から高い領域まで。

ヒートポンプが活躍しやすいのは比較的低温で、60度未満とか、そのあたりです。そこはお湯のヒートポンプ、熱風のヒートポンプで提案してきました。

もう少し温度が高くなると、高価なヒートポンプではなく、熱交換器を使った排熱回収で、熱風やお湯を作る提案もしています。

あとは空調で、吸収式冷凍冷温水機をヒートポンプチラーに変えましょうという提案もしてきました。

工場は熱の使用形態も廃熱の形態も多様で、担当者レベルでヒートポンプや排熱回収を検討するのはなかなか難しい。そういう中で、積水様のスコープ1削減に少しでもお手伝いできたのは嬉しいと思っています。

また、設備更新の際の補助金申請のご依頼をいただいた際は、大変うれしく思いました。診断から導入支援まで、伴走支援が私のモットーですので。


省エネは「やり尽くした」のか? 現場を回って見えたこと


DPD

吉田様、今回の取り組みをされて、周りの反応はいかがでしたか。


SK

私が入社して省エネやりませんかと言ったとき、「19年度まで全社で取り組んだから、やり尽くした」「絞り尽くした」「もうやらなくていい」と言われました。
でも本当かなと思っていました。

23年にスコープ1削減の話になって、省エネをきっかけに工場を訪問したら、「何年前に省エネ止まってるんだろう」という状態でした。おそらく19年ぐらいを境に、省エネ活動が停滞したとおもわれました。

ただ、数年経つだけでも操業形態が変わったり、新しい設備に変わったり、人が変わったりします。だから省エネは絶えずやらなきゃいけない。

間を置いてしまうと、ネタはいくらでも出てくる。そういうものなんだね、とわかってもらえたのがよかったと思っています。

それと、社内から「ずっとやるのか」「最終的には拠点に実装して手離れすべきでは」と言われたのですが、私はノーだと否定しています。

なぜかというと、「過去に現場で自走だとして失敗したためですことをお忘れですか」と。
自走だと言って現場任せにしたら、多くの拠点でやらなくなった。

結局、誰かが言い続けて見て回る人がいないとダメです。

会社の中では環境監査があり、国内拠点を3年に一回で回りきる取り組みを別部署がやっていますが、同じように3年に一度ぐらい回って、「前に提案したこと実行されましたか」「もう一回見ましょうか」「何かありますかね」とやって、火が絶えないようにするのが重要だと話しました。

部内では概ね了承され、今後も一巡、二巡、三巡と回していこうと思っています。深澤様には引き続きよろしくお願いします。


「省エネ」と「CO2削減」は違う。再エネ・電化(ヒートポンプ)


DPD

(質問として)蛍光灯をLEDにするとか、車をハイブリッドやEVにするとか、そういうものはやりきっていて、今回のヒートポンプはそれとは違う、という理解で合っていますか?


HC

今の質問に関連してですが、省エネと、CO2削減は明確に違います。

省エネは「使うエネルギーを減らす」。
CO2削減はそれに加えて「再エネ」と「電化」がある。
環境省の長期低炭素ビジョンでも、再エネ・省エネ・電化をやりましょうとなっています。

車でいうとガソリン車をEV化するのが電化。工場でいうと、化石燃料のボイラーを電気で動くヒートポンプにする。
ヒートポンプでの電化は少々わかりにくく、私の専門領域としてそこをお手伝いしています。


DPD

吉田さんがおっしゃった「やり尽くした」という表現、すごく想像できる気がします。


SK

よく、乾いた雑巾っていいますよね。新しく行く工場はみんな同じことを言ってきます。
「うちはやり尽くしたはずなので」とか。


ペロブスカイト太陽電池。軽量・国産材料・量産の話


DPD

積水化学工業様といえばペロブスカイト太陽電池が知られています。現在進行中の技術的な取り組みについてご紹介いただけますでしょうか。


SK

私は開発をしている人間ではないので技術的に紹介するのは難しいのですが、一般論として、シリコン型の太陽光発電は9割以上が中国製で、経済安全保障上それでいいのかという話が出ています。

また、太陽光を地上設置型で広げるのはもうノー、という流れもあり、今後伸ばすなら住宅や工場の屋根・建材などへの設置に舵を切っている、という理解です。

積水化学でも、FIT開始後に8か所ぐらいFIT太陽光を始めましたが、自家消費型は進まず、20年から拠点に入り始めて今30か所ぐらいまで増えています。ただ、荷重の問題で設置が鈍化し、新しく置けない状態になってきています。

ペロブスカイトは重量が一般的なシリコン製と比較して10分の1ぐらいの軽量で、発電効率も研究レベルでは同等ぐらいまで水準が上がってきています。屋外耐久は今10年相当を確認している。

26年から出荷が始まるとされていて、27年からは元シャープ堺工場の敷地の一部で生産し、出荷していく計画です。最終的には30年に年間100万キロワット級の生産ライン構築を目標に、総投資3千億円以上をかけて準備を進めています。

また、材料のヨウ素は世界シェアで日本が2番。1番はチリで、チリが5割くらい、日本が3割くらいで、2か国で世界の8割以上の生産量という構造だと理解しています。中国はヨウ素がほとんど取れない。

そういう意味でも、重要なキーコンテンツになるのではと期待されています。


HC

太陽光発電FIT始まってもう14年経ちはじめますけど、そろそろリパワリング必要なんですよね。


SK

おっしゃるとおりです。


HC

本来なら古いのを撤去して新しいパネルを設置しますが、古いパネル撤去せずにその上にペロブスカイトフィルムを貼って工事費も抑えつつリパワリングできるのは素晴らしいでしょうね。


SK

国内で再エネ比率を上げるということにも、新しい開発なしでできるので、理解が得やすいのではないか、理にかなっていると思います。


中堅・中小企業の脱炭素支援。人も金も足りない現場で


DPD

ここまでを踏まえて、ほっとコンサルティング様の中堅・中小企業向け支援についてお伺いします。
GHG算定やロードマップ策定などで、中小企業に向けた工夫があれば教えてください。


HC

今日ここまで話してきたのは、大企業製造業向けのヒートポンプポテンシャル診断です。もう1つの大きなビジネスが中堅中小企業向けの脱炭素支援です。

具体的には、GHG(スコープ1・2・3)の算定、カーボンフットプリント算定、2030年に向けたCO2削減ロードマップ作りなどです。

中堅中小になると、大企業と全然違って経営資源が全く足りない。人も金も足りない。

「カーボンニュートラル誰がやるの?」「お金ないよ」みたいなことが大きな課題になります。

私は民間取引で支援することもありますが、公的支援としてもやっています。中小機構(中小企業基盤整備機構)でカーボンニュートラルのアドバイザーもやっています。

補助金が入るので企業の負担を少なくできるメリットがあります。制度も使いながら進めてほしいと思っています。

ただ、民間で今私がやっているような伴走支援を誰がやっているかというと、GHG算定のソフト会社などがあるが、ソフトの使用費もコンサル費用も高い。

日本の製造業、とくに中堅中小がカーボンニュートラル化を進めるには、比較的安価に伴走支援してくれるスペシャリストが増えないと厳しい。企業数の99%が中小企業ですから、そこをどう拾って助けるかは大きな課題だと思います。


DPD

中小企業だと費用の問題がネックで、月3万円削減より営業に行った方が…となりやすい。その中で、中小企業が脱炭素に取り組むメリットはどう考えればよいでしょうか。


HC

国は「知る・測る・減らす」と言いますが、私はそこに「広げる」を付けて「知る・測る・減らす・広げる」にしましょうとよく言います。

「広げる」は、せっかくいい取り組みをしているなら、顧客・銀行・社員などのステークホルダーにしっかり伝えること。ホームページで取り組みやESG情報を伝える中小企業も環境貢献企業として発信する。

さらに、カーボンフットプリント算定をして、CO2ゼロ製品などのグリーン製品・サービスを開発して顧客に売っていく。大企業側もスコープ3が下がるので喜ぶ。

金融機関にも伝えることで、金利優遇(サステナビリティ・リンク・ローン等)につながる場合もある。

脱炭素は手間・お金がかかる「面倒くさいもの」ではなく、選ばれないリスクを回避し、業績やブランド力アップにしっかりつなげていくことが重要ですね。

エンディング|いま、現場から始める意味


HC

少し話が大きくなるかもしれないんですが、私がいろいろな企業さんの脱炭素支援をさせてもらう中で、強く感じているのは、「気候変動はもう他人ごとではない」ということです。

脱炭素って、「制度だから」「顧客から言われたから」「開示が必要だから」という理由で始まることが多いんですけど、背景をちゃんと見ていくと、正直、怖い話なんですよね。

よくお話しするのが、文部科学省・気象庁がまとめている「日本の気候変動2025」レポートの話です。いくつかのシナリオがある中で、いわゆる「4℃シナリオ」と呼ばれる、このまま温暖化が進んだ場合の将来像があります。

そのシナリオでは、南極及びグリーンランドの氷床が大規模に崩壊して、海面が2100年に2m、2150年に5m上昇する可能性を排除できない、とされています。

5メートルというと映画の話みたいに聞こえるかもしれませんが、実は縄文時代って海面がそれくらい高かったと言われています。だから、内陸部に貝塚が残っているわけですよね。

つまり、決してあり得ない話ではない。

これは、私たちの世代というよりも、子どもや孫の世代にちゃんと楽しく生きていける未来を残せるかどうか、そこに直結している話だと思っています。

だからこそ、企業としてまずは「知る」ことから始める。排出量を「測って」、現場を見て「減らす」。その取り組みを周りのみんなに「広げる」。今日ずっと話してきた「現場起点」という考え方そのものだと思うんです。

正直、今すぐすべてを変えるのは難しいです。でも、今日できることは必ずある。

ひとつ設備を見直す。運用を見直す。次の投資の判断基準を変える。

そういう積み重ねが、結果として次世代の未来を守ることにつながると、私は本気で思っています。


SK

深澤さんがとても大きな視点で締めてくださったので、私は少し現場寄りの話になりますが、脱炭素って「攻め」の文脈で語られることもありますけど、まずは製造業を守るための脱炭素だと思っています。

今、日本のものづくりの現場って、外から見ている以上に、見えないところで疲弊してきている感覚があるんです。このままだと、日本の「ものづくりという文化」や、雇用を生んできた産業の土台が弱ってしまうんじゃないか、という危機感をずっと持ってきました。

その中で、省エネというのは現場にとって非常に重要な入口なんですよね。

コスト低減につながりながら、脱炭素にも貢献できる。現場が受け入れやすく、納得もしやすい。

ただ、省エネは「やって終わり」ではありません。

過去にやり尽くしたと思って止まってしまうと、数年で運用はズレてしまう。操業形態も、設備も、人も変わるからです。
だから本来、省エネも脱炭素も、継続して当たり前の活動なんですよね。

私は、省エネや脱炭素を通じて、現場にもう一度「考える文化」を根付かせたいと思っています。

脱炭素が、現場を追い詰めるコストではなく、現場を立て直すきっかけになり、人材育成や現場力の向上につながるのであれば、十分にやる価値がある。そう考えています。


DPD

今日の対談を通して、強く感じたのは、脱炭素は単なる技術や制度の話ではなく、「現場の文化をどう続けるか」という話でもある、ということでした。

「やり尽くした」と思った瞬間に止まる。でも、現場は変わるから、またズレる。

だからこそ、見に行く人が必要で、回し続ける仕組みが必要で、外の知見も必要になる。
そして、その一歩一歩が、次の世代の未来につながっていく。

本日は、お二方とも貴重なお話を本当にありがとうございました。

(了)

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