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「ヒートポンプ」導入は今がチャンス!検討ポイント・事例・コスト分析・補助金

 2023年改正省エネ法において、日本政府は再エネ導入拡大と併せて電化・水素化を推奨しています。ヒートポンプでの電化は熱の脱炭素化の切り札的な対策ですが、導入にはポイントを押さえた検討が必要です。また、昨今のエネルギー費の高騰はヒートポンプ導入効果を一層高めており、各種補助金の充実により導入ハードルは低下しています。検討のポイントや最新の導入事例も含めて解説します。

目次

はじめに

 世界的な脱炭素への波は、大企業のTCFDやSBT参加で大きさ・速度を増し続けています。
エネルギーの脱炭素を考える場合、電力と熱に分けて考える必要があります。電力については太陽光発電等の再生可能エネルギー(再エネ)を導入し、グリーン電力を購入すれば対応が可能ですが、熱に関しては課題が多くあります。熱、すなわち燃料(ガスや油)は燃焼に伴いCO2を排出します。燃焼におけるCO2を削減することは非常に困難ですが、熱を電力で作ることができれば、電力の脱炭素化を進めることで熱も脱炭素化が可能です。
 100℃以下の熱を電力で効率よく製造するヒートポンプ。ヒートポンプの導入がカーボンニュートラルな世界実現のカギを握っていると言っても過言ではありません。

改正省エネ法でのヒートポンプ役割

 2023年4月に施行予定の改正省エネ法は、エネルギーの捉え方を大きく改正するものであり、対象とするエネルギー範囲が化石燃料のみから再エネ等も含む全てのエネルギーへの変更となります。まさに2050年カーボンニュートラルを強く意識した改正であり、その中でもヒートポンプ(電化)への大きな期待が感じられます。

改正省エネ法が示す脱炭素の方向性

 改正省エネ法を理解することで、日本の脱炭素への方向性が見えてきます。
 非化石エネルギーへの転換の促進が改正の趣旨であり、需要側の改正内容としては、①太陽光発電等の再エネの導入と蓄電池での電力需要の最適化、②製造プロセスの電化・水素化、となります。
 現在技術が確立されている太陽光発電やヒートポンプを最大限導入することで、電力・熱の脱炭素化を最大限促進し、それでも削減することのできない部分については、電力であればCO2クレジット等の環境価値を購入し、熱であれば将来的に再エネ由来の水素を使用することが、日本の脱炭素の方向性だと思われます。

脱炭素の正しい順番

 環境省の「長期低炭素ビジョン」にもあるように、日本のCO2削減の方向性は以下の3つの行動です。
 1つは「エネルギー消費量の削減」すなわち省エネであり、徹底した省エネが前提となります。
 2つは「エネルギーの低炭素化」であり、電力では太陽光発電等の再エネ導入、熱では燃料転換や水素化です。
 3つは「利用エネルギーの転換」であり、自動車であればガソリン車から電気自動車にシフト、熱であればボイラーからヒートポンプにシフトです。ガスや油等の化石燃料は脱炭素の手段がほぼありません。ヒートポンプンプで熱を製造すれば、ボイラーで使用する化石燃料は削減され、さらにヒートポンプで使用する電力を再エネ等のCO2ゼロ電力にすれば、ヒートポンプが作る熱もCO2ゼロとなります。

ヒートポンプ導入検討の3+1のポイント

 ヒートポンプは大きなCO2削減効果が見込める設備ですが、最適なシステム設計を行わないと性能を発揮することができません。ヒートポンプ導入検討に必要な3+1のポイントについて説明します。

温度差が小さいか

ヒートポンプは廃熱源から熱を奪い加熱します。この廃熱源と加熱の温度差が小さいほど効率が高くなります。以下、例を記載します。
例①廃熱源:冷水7℃ 加熱:殺菌温水90℃
 温度差:83℃ ⇒ 大きな温度差 効率×
例②廃熱源:冷却水30℃ 加熱:洗浄温水60℃
 温度差:30℃ ⇒ 小さい温度差 効率〇

距離が近いか

 廃熱源から熱回収し加熱をおこなうため、廃熱源と加熱先を配管で接続します。単純に距離が近いほうが工事費を小さくすることができるため、極力コンパクトな配置設計を心がけたいところです。距離の目安としては100m以内が一つの基準となるでしょう。

熱量と熱バランスが整合しているか

 ヒートポンプは廃熱源からの熱回収と加熱を同時におこないます。そのため、時間帯や季節等で廃熱源と加熱のタイミングが一致しないとヒートポンプの運転ができません。また、「廃熱回収量+ヒートポンプ消費電力=加熱量」の関係となるため、加熱量のほうが若干大きい程度でほぼ同量の廃熱量・加熱量が好ましくなります。
 タイミングや熱量バランスについてはヒートポンプに適さない既存設備状況であることもあります。その場合は、複数の廃熱源や加熱先を組み合わせバッファータンクを設置するなどして、ヒートポンプを安定稼働させるシステム構築も可能です。

ハイブリッド化

 ヒートポンプは強み(高い環境性)と弱み(熱バランス・高価)があるため、既存設備の代替として導入するよりも既存設備とのハイブリッド設置したほうが費用対効果が良くなる場合があります。

 「並列方式」は既存設備とヒートポンプを並列設置します。ベース負荷をヒートポンプが担当し、ピーク負荷をボイラー等の既存設備が処理します。これにより、ヒートポンプの能力を小さく抑え、運転時間を長くすることが可能となり、投資回収年数を短くすることができます。
 例としては、定常負荷(ベース負荷)分の能力でヒートポンプを選定し、立ち上げ負荷(ピーク負荷)を既存の蒸気ボイラーで処理するものです。
 さらに、冷温同時ヒートポンプをベース機として、冷水製造とボイラー給水予熱をおこない、汎用チラーでピーク負荷を処理するのも並列方式です。

 「直列方式」は、得意とする100℃以下の温度域のみをヒートポンプが加熱(予熱)し、不足分の温度をボイラー等の既存設備が追い焚きするものです。ヒートポンプが得意な温度域のみを担当するので、高い効率での運用が可能となります。

ヒートポンプ導入コスト分析

 省エネ設備の導入可否判断について、従来は投資回収年数で判断する企業が大半であり、企業により違いはあるものの概ね3~7年を下回れば導入するというものでした。2年前のエネルギー価格が安定していたころのヒートポンプの投資回収年数は5~8年程度であり、企業の投資判断基準をクリアできない場合もありました。
 しかし、昨今のエネルギー価格高騰はヒートポンプ導入に追い風となっています。電力は増えるものの化石燃料を大きく削減するヒートポンプは、投資回収年数が2年前と比べて減少しています。2年前と現在を比較すると、ヒートポンプの投資回収年数は7.9年から2.2年に改善しています。(都市ガスおよび高圧電力の場合)
 化石燃料は2028年からの炭素税導入も決定しているため、今後もこの傾向は続いていくと見込まれます。

導入事例

最新のヒートポンプ導入提案事例を6件ご紹介します。

温水・冷水の同時製造

 麺や豆腐製造のように「茹で」と「冷却」を連続でおこなう工程はヒートポンプの導入が可能です。
 温水と冷水の同時製造をおこなう場合、廃熱源(冷水)と加熱先(温水)の温度差が大きくなり、3-1の記載と反することになります。しかし、既存冷水チラーの省エネ効果も発生するため、CO2削減やコストメリットが大きくなる場合もあります。
 食品のように製品の汚染防止が必要な場合や製品破損での水質悪化が予想される場合は、熱交換器を挿入し、間接加熱・冷却をおこないます。

乾燥(水熱源式)

 印刷機、ラミネーター・コーター、スプレードライヤー等の乾燥機は、熱風で製品を乾燥させています。ヒートポンプで120℃までの熱風を製造することができ、特に吸気外気予熱への導入が有効です。
 水熱源式の場合、2種類の熱源が使用できます。一つはチラー冷水からの熱回収であり冷温同時製造となり、省エネメリットを大きくすることが可能です。もう一つは水冷コンプレッサー等の冷却水からの熱回収であり、加熱側の効率を高く運用することができます。
 ヒートポンプで製造した熱風は既存の蒸気ヒーターの上流に供給することで不足する温度を既存設備で追い焚きします。万が一のヒートポンプ故障時は既存蒸気ヒーターによる即時バックアップが可能で、安心なシステム構成となります。

乾燥(空気熱源式)

 空気熱源式は周辺空気から熱を回収するヒートポンプで、シンプルな構成のため比較的計画が容易です。
 室外機で熱回収、室内機で60~90℃の熱風を供給し、乾燥プロセスの省エネが可能です。既存外気ダクトにバイパスする形で設置をおこなうため、万が一の故障の場合でも生産に影響を与えにくい安心なシステム構成です。
 室外機での周辺空気熱回収という特徴を生かし、年間暑い生産室やコンプレッサー室に設置すれば、室外機が周辺空気熱回収すなわち冷房機として使用することができます。室内の冷房と乾燥加熱の冷温同時使用も可能なのです。その冷房効果は一般的なスポットエアコン10台程度に相当します。

クリーンルーム

 クリーンルームは一定の温室度を維持するために、冷水で除湿、温水で加熱をおこない、常時冷水温水を同時使用し大量のエネルギーを消費しています。
 ヒートポンプは、冷水の還り水から熱回収するためチラーの負荷が低下しエネルギー使用量が減少します。回収熱を利用し、温水の還り水に必要なだけ温度を加えることで、ボイラーのエネルギー使用量も減少させます。
 某医薬品製造企業では、ヒートポンプ導入後の優れた省エネ効果を認めて頂き2台目の導入も実施頂きました。現在、3台目導入の検討中です。

給湯

 宿泊施設、温浴施設、老健施設、工場等の給湯をおこなう施設は、ガス・油等の化石燃料をボイラーで燃焼して湯を製造しています。
 昨今のエネルギー価格高騰や脱炭素の対策に、給湯のヒートポンプ化は有効です。
 エコキュート式のヒートポンプで65℃貯湯・供給します。給湯還り管は放熱ロスにより温度低下するため、循環式のヒートポンプで保温をおこないます。2つの方式のヒートポンプを活用することで、効率の高いシステム構築が可能です。

塗装前処理

 金属製品は塗装前に表面処理をおこない、塗装品質を向上させています。表面処理は複数の水槽にて洗浄・脱脂・化成処理等を液温50~70℃程度でおこないます。液の加熱は蒸気でおこないますが、この温度域の場合ヒートポンプで十分加熱が可能です。
 循環式ヒートポンプで温水を製造し、水槽ごとの熱交換器と温調設備で加熱をおこないます。
 ヒートポンプで蒸気使用を完全に中止することができると、蒸気配管からの放熱ロスやドレンロスを無くすことが可能なため、大きなCO2削減効果が見込めます。

補助金の活用

ヒートポンプ導入には各種省エネ補助金の活用ができます。主な補助金をご紹介します。

「先進的省エネルギー投資促進支援事業」経産省
概要:省エネ設備導入費用への補助、多様な申請枠組みがあり、企業・設備に応じた申請が可能。2023年春より予算規模拡大で活用が容易になりました。
補助率:1/2~1/3(企業規模や枠組みによる)

「SHIFT事業(工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業)」環境省
概要:CO2削減のための設備導入費用への補助
補助率:1/3(設備更新補助)

おわりに

 熱の脱炭素で注目のヒートポンプ。エネルギー価格高騰や法改正などを追い風にし、本格的な導入フェーズ入りました。導入検討の一助になれば幸いです。

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