廃熱回収省エネセミナー4 加熱プロセス(給湯)ごとの検討
工場の廃熱回収省エネセミナー4回目は、加熱プロセスごとの廃熱回収検討についてです。
1.加熱プロセスの分類
工場で使用する従来の加熱プロセスは、ある程度パターン化できます。
- 給湯(洗浄、殺菌、手洗):60~90℃
- 熱風(乾燥、スプレードライヤー、デシカント再生):60~120℃
- 温水(暖房、ジャケットタンク加熱):40~60℃
- ボイラー給水:~80℃
今回は、給湯加熱プロセスについて考えてみましょう。
2.給湯システムの概要
工場における給湯は、大きく分けると貯湯式と瞬間式の二つに分類できます。
貯湯式は、お湯を製造しタンクに貯める方式です。メリットは、タンクに貯めることで給湯の使用の負荷変動を吸収することが可能で、お湯製造の熱交換器等を小さくすることが可能です。デメリットは、貯湯中の細菌類(レジオネラ菌)の繁殖防止のために60℃以上にする必要があり、タンクや配管からの放熱ロスが大きくなります。
瞬間式は、蒸気を使用した給湯製造装置です。メリットは、給湯が必要な時に製造するため放熱ロスが小さく省エネとなります。デメリットは、給湯の負荷変動に対応するために、お湯製造の熱交換器等の大きさが大きくなります。
よって、負荷変動が大きい工場では貯湯式を、負荷変動が小さい工場では瞬間式を使用することが効率的です。
3.給湯の省エネ
給湯の省エネについて考えます。一般的な取り組みとしては、放熱ロスを減らすために保温を強化することや、高効率ボイラーへの更新、エコキュートの導入があります。
最も取り組みやすい対策として、保温ジャケットの取り付けがあります。蒸気配管・お湯配管はメンテナンス性やコスト低減のために保温がついていないことが多いです。お湯製造装置の周辺の蒸気配管やお湯配管で、保温がついていない弁類やフランジに、保温ジャケットを取り付けます。非常に効果が高く、省エネメリットでの投資回収年数は1~2年程度となります。高効率ボイラーやエコキュートの導入については、既存ボイラーが老朽したタイミング等で検討します。
4.給湯の廃熱回収
給湯の廃熱回収について考えます。廃熱回収ヒートポンプを検討する際重要なことは、ヒートポンプの運転時間を極力長くすることです。ヒートポンプは省エネ効果が高いですが高価な機器ですので、投資回収年数を短くするために長時間安定的に動かす必要があります。また、ヒートポンプは発停を繰り返すことにより内部の圧縮機の劣化が進むため、機器の保護のためにも安定した長時間運転が重要です。そのためには、タンクでの貯湯式が向いており、既存もしくは新設のタンクをヒートポンプで焚き上げます。タンクが負荷変動を吸収してくれるので、ヒートポンプの大きさを小さくすることが可能です。
廃熱回収ヒートポンプ導入の検討順序について説明します。
- 既存給湯負荷の把握
- 廃熱回収源の把握
- ヒートポンプ選定
- システム検討
- 省エネ試算、費用対効果検討
1.既存給湯の負荷を把握します。季節・月・曜日・時間ごとにどのようにお湯を使用しているか?を運転データ・日報から把握します。把握した給湯負荷を、ベース負荷(安定して発生している部分)とピーク負荷(突発的に発生している負荷)に分けます。ベース負荷部分をヒートポンプで賄う場合はピーク負荷を既存の加熱装置(蒸気熱交換器等)で補います。ピーク負荷も含めた全負荷をヒートポンプで賄う場合は、貯湯タンクの大きさを考慮し、給湯の需給バランスを取りながら能力選定します。
2.廃熱回収源を探します。廃熱回収源候補(排水、冷却水、冷水、排ガス、室内熱)の排熱量(量・温度)と発生状況(季節・月・曜日・時間ごと)を把握します。廃熱回収ヒートポンプは廃熱回収とお湯製造を同時におこなう必要があるため、給湯負荷と廃熱源は同じタイミングで発生する必要があります。タイミングが一致しない場合は、複数の廃熱源を組み合わせることも検討します。また、工事費用を抑えるために、廃熱源と給湯使用場所は近いほうが好ましいです。
3.ヒートポンプの能力を選定します。給湯負荷と廃熱量から方式・メーカー・能力を選定します。方式や能力は多岐にわたる為、廃熱回収のポータルサイト「産業用ヒートポンプ.com」を参考にして下さい。私も作成に協力させて頂いたポータルサイトですが、非常に良く纏まっています。
4.タンク・熱交換器・ポンプ等を含めたシステムを検討します。詳細はメーカーやエンジニアリング会社に任せるとして、初期の検討ポイントとしては「長時間安定」「シンプル」「コンパクト」です。「長時間安定」は、良好な費用対効果を出すためには年間5000時間程度以上のヒートポンプ運転時間が必要です。5000時間程度あれば投資回収5年程度のシステム構築の可能性があります。「シンプル」は、投資金額を抑えるために余計な設備を極力無くします。廃熱源に季節変動があるような場合は、複数の廃熱源を組み合わせる必要があり複雑化していきます。「コンパクト」は、工事費用を抑えるために加熱場所と廃熱回収場所を極力近づけます。またシンプルなシステムは補機類も少なくなり、設置スペースが小さくなります。
給湯は洗浄や手洗に使用されるため水質に注意が必要です。汚染が想定される配管系統(排水、ヒートポンプ通過水)には熱交換器を介し、汚染側の配管圧力を低くすることで汚染リスクを低下させます。
5.設備投資の経済性を判断します。投資金額と省エネメリットを算出し、経済性判断の計算方法で検討します。何年で回収できるか(投資期間法)、省エネメリットを利率考慮して現在の価値に割り戻す(正味現在価値法NPV)、NPVがゼロとなる割引率で判断(内部収益率方)等により投資判断をします。これは、会社の投資検討ルールに従って検討してください。
5.まとめ
工場の給湯での廃熱回収は、投資回収等の経済性の判断がポイントになるでしょう。給湯はバッチ使用や短時間使用することも多いため、いかに長時間安定した運転ができるか?が導入可否に影響します。 次回は、熱風(乾燥、スプレードライヤー、デシカント再生)の廃熱回収について説明します。